#5 自分でする袖丈直し

私には洋裁の技術も知識も経験もありません。ど素人です。
なのでこれは「家庭科でお裁縫を習ったことがある」程度の人物による、とりあえず手持ちの道具で行なった剣ボロ移動ありの丈直しの記録です。




時間はかかりましたが、意外にも楽しかったせいか体感時間はもっと短いです。

使用した道具は「セール価格1万5000円ほどで買った家庭用ミシン」「小学生のころ使っていたお裁縫道具一式」「絹のボタン付け糸」です。

「絹のボタン付け糸」は、剣ボロにある閂/カンヌキ用です。もちろんボタンを縫い付けるのにも使用できます。
光沢があり華やかな仕上がりになるので、好みやワイシャツの雰囲気に合わせて綿と絹を使い分けていきます。




鳥足掛けは、貝ボタンなど厚みのあるボタン向きの、掛け外しがしやすいボタンの付け方ですボタンの重心が平行縫いのように真ん中にくるのではなく、少しズレる(偏る)ことで、厚みのあるボタンでも掛け外ししやすくなります。
ボタンをベタ付け(重心が真ん中になる)するのではなく、裏から見ると一点になるように起点へ針を戻します。私はそう認識しています。




左の閂がついているのが購入時のままの縫製で、右の閂が無い方が私が丈直しした袖です。 職業用ミシンと家庭用ミシンの性能の差をさし引いたら許容範囲の出来かなと思います。

ポイントは「難しい部分は仮縫いをする」「慣れるまで速さはゆっくりモード」「針は見ず目印となる箇所(抑え/台の目盛りなど)を見る」です。
基本的には裁った長さと同じだけ切込みを深くし、各パーツを外した時とは逆順ではめ込んで縫っていくだけです。 
元の縫製をみると、剣ボロは一筆書きのように縫う必要があったので、上ボロは必ず仮縫いしてからミシン掛けしました。仮縫いはざくざくと縫ってしまうだけなので面倒に思えてもした方が仕上がりが圧倒的に早くて綺麗です。「まち針で留めてミシン掛け」は素人の私には難しい上に地味に刺さって痛かったので止めました。
 
閂のつけかたは、まず下の写真のように2本ほど芯を作ります。 




あとは端まで玉結びをしていくだけです。最後までできたら捻じれないよう針を刺す位置を確認してから裏で玉結びをして完成です。




両袖の完成写真です。↓




修繕するワイシャツの縫目/針目の長さに合わせて縫った方が、修繕箇所が悪目立ちせず仕上がりが美しいです。縫い目の大きさに迷ったとき…たとえば1.2mmか1.4mmかで迷ったときは1.2mmを選びます。縫目が細かい方が丁寧な縫製に見えるからです。また縫目が細かいほど針がゆっくり進むので、個人的には縫い易いです。

自分で修繕するのは手間と時間がかかりますが、シャツの微妙な違い(肌ざわり、全体の雰囲気など)腕の長さの左右差などを踏まえたうえでの微調整をすることも可能になるのが利点です。それに数をこなすほど、糸を解くのも早くなりミシンがけも細かい作業ができるようになり、できることが増えて楽しくなってきます。

他人が見れば喜べるほどの出来ではないかもしれませんが、自分では素人の我流修繕も悪くはないかなと思います。






某ファクトリーブランドの縫製では、閂がねじれ、長さも不十分で引きつっています。また縫い目が粗いせいで縫目の主張が強く、最後まで折り返し部分を縫えていないため、雑な印象です。受け取った直後なのに既にほつれているのも気になります。

早さではなく、直営店として日本の技術力を売りにしているのだから、その理念にかなう丁寧な縫製のできる修繕委託先を見つけ、修繕依頼システムを構築し、うまく機能するのを確認してから、お直しのサービスを提供してほしかったです。ジャケットをつくる日本の職人、シャツをつくるイタリアの職人、それぞれの技術力が高いだけに販売の段階でこのようなことが起きているのは非常に残念です。
利益を追求するのは正しいですが、「何を優先して何をしてはいけないのか」製造/仕入れ部門と販売部門とで解離がおきているように思います。


閂もメーカーやブランドによって太さや長さが異なっているので、元のかたちを記録しておいて、それを参考につけます。




左の白シャツは曲線を描くよう長めに芯をつくり、しっかりと固く玉結びをしていった閂です。右のラベンダーストライプのシャツは 直線になるように芯をつくり、緩めに玉結びをしていった閂です。
このように少し変えるだけでも雰囲気が異なってくるので、元の閂をお手本にしながら挑戦してみてください。メーカーやブランド、あるいは縫製人の物語の一端に触れるような感覚が、個人的には面白いです。



■参考資料として…
ワイシャツを分解すると、各ブランド/メーカーによってつくりが違います。
私がした袖丈直しの範囲内ではありますが、その一覧表です。 





補足:
「表からみると縫い線1本、裏からみると縫い線2本」は、まずは裏を中表にして縫う感じで縫い進めていきます。↓